2014年5月5日月曜日

日本語教授法の理解について

指導教官の専門が日本語教授法で、応用言語学研究という修士課程の授業もそれが中心と

なっています。これが英語教育にも通じる話でなかなか面白いんです。

授業のレポートを翌週に出すことが毎回の課題になっています。


ご覧になっているみなさんの何かのご参考までに、自分のレポートを二回分まとめてアップします。

テキストは、西口光一、1995、日本語教師トレーニングマニュアル4 「日本語教授法を理解する本ー歴史と理論編」 バベルプレス 


日本語教育の歴史は大きく4つの時期に分かれる。1.戦前戦中は、オーソドックスな教授法はまだ確立していなかったが、長沼直兄の実践は行われていたが、広く普及はしていなかった。2.戦後から1980年頃まで「直接法」が伝統的な日本語教授法として本当の方法だとみなされていた。3.1980年頃から1990年頃まで、英語教育に普及したCommunicative Language Teachingの影響を受けたさまざまな試みが行われた。4.1990年頃から現在まで、Audiolingualism, 直接法、コミュニカティブアプローチからさまざまなものを引き継いたが、原理がないドグマだけが「チョクセツホウ」に残ることになった。
 直接法の基礎を築いた長沼直兄は、日本の英語教育を改革するために文部省に招へいされて日本に1932年から1936年に滞在したパーマーの協力者および共鳴者で、師弟関係であったかと思われる。彼は1933年までには、標準日本語読本を完成させた。直接法は、イギリスのSituational Learning Teaching, その基礎であるパーマーのオーラルメソッドの系譜に連なる教授法である。
 長沼直兄の直接法は、言語と状況を経験を両方させ、ほかの状況に使えるようにすることをめざす。たとえば、「つくえ|の|うえ|に|X|があります。」を教えるにあたって、机の実物の上に手をおき「つくえの、うえに、あります」と言いながら、場所を示す。状況のアナロジーを利用して、「ほんの、うえに、あります」と言いながら、本の上に手をおく。鉛筆をもって、「つくえの、うえに、えんぴつが、あります」「ほんの、うえに、えんぴつが、あります」とそれぞれ言いながら鉛筆をそれぞれ机と本の上に置く。「あります」と言いながら鉛筆を置き、「ありません」と言いながら鉛筆を隠す。
こうして文型・文法積み上げ方式で媒介語を使わなくていいように教える。これは、パーマーが言語記号と指示対象や意味を融合させるために身につけなければならない、と主張する言語学習の5習性に基づいている。その5習性とは、()音声の観察、(2)口頭による模倣、(3)口頭による口慣らし、(4)意味化、(5)類推による作文、である。
 長沼の直接法はこのように原理があるが、老舗の東京日本語学校でも直接法はもう教えられていない。現在、席巻している「チョクセツホウ」はオーディオリンガルメソッドと長沼の教授法という原理のちがうものを取り入れていて、媒介語を忌避し、文型・文法事項を中心とし、教授法が最重要だとするようなものになっている。


 

  伝統的な日本語教授法とオーディオリンガルメソッドは一見似たように見えるが、本質的な部分で異なっている。前者にとっては言語習得の理論が最も重要なものであり、後者では行動心理学の刺激―反応理論を援用してそれを学習させるための方法が最も重要なものである。
 伝統的な日本語教授法のよりどころはパーマーの言語観、中でも音声言語が言語の基礎であり、文字言語は二次的なものであるという考え方、また、言語の構造つまり文型と文法事項が話す能力の中心であるという考え方である。またその精緻な言語学習観で強調されるのは、場面のなかでの言語習得ということである。
 音声言語を重視するため、耳による音声の観察を強調し、モデルを何回も注意深く聞かせ、すぐに反復練習やパターン・プラクティスに入るようなことはしない。1.何回も聞かせ、2.頭の中で反復させ、3.反復しながらぼそぼそ模倣をする、4.聞いてくりかえし、5.聞かずにくりかえす、といいう5段階を経る。
 目標言語の構造についての知識、能力こそが言語運用能力の基礎となる、と考えるため、この教授方法はしばしば文型・文法積み上げ方式と呼ばれる。それは、シリーズで行う、という意味。
 また場面づくりのため、絵、写真、実物、模型、ジェスチャーなどで場面を人為的に教室の中につくりだし、学習者をある発話場面においこむ。
 オーディオリンガルメソッドは、サピア、ブルームフィールドら構造言語学者の流れをくんで開発されたミシガンメソッドの開発者フリーズがしばしば提唱者としてあげられる。その萌芽は、第二次世界大戦中に実施されたアーミーメソッドにある。目覚ましい効果をあげたアーミーメソッドは、学習者を目標言語に集中的に接触させたことによるものであるにすぎない。が、この成功のために、集中的な高等練習中心の教授方法の価値が広く認められ、これを参考にし行動主義の心理学の知見を加えて、オーディオリンガルメソッドが完成した。
 オーディオリンガルメソッドの言語学習観は、言語の要素を身につけ、音素、形態素、語、句、文へと組み立てていくための構造を学習することである。また、ネイティブ・スピーカーの言語が究極の目標であるので、音声的また文法的な正確さ、ノーマル・スピードを学習者に厳しく要求する。その指導法の基本は、会話文の反復練習、パターン・プラクティス、ミニマルペア、文型や文法事項の教科書による予習と授業での確認、テープレコーダーとLLの活用にある。

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