2018年7月15日日曜日

ヴィゴツキーへの回帰

中村和夫(2010)『ヴィゴツキーに学ぶ子供の想像と人格の発達』福村出版   を読んでいます。


5月に発行された大阪大学大学院言語文化研究科のプロジェクトで、
談話とイデオロギーがテーマになっていたので、それについて論文を書くために
ポッドキャスト番組の談話を分析してきました。

それはまあ、英語教育政策に関連する語りの分析です。

その冊子も発行され、(こちらで読めます)
https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/69905/gbkp_2017_s4_039.pdf

関西英語教育学会でも同様の番組の談話を別のテーマで分析して発表し、
9月の社会言語科学会のポスター発表でも同じ番組の別の部分の談話を分析する予定です。

計3回同じ番組の談話をもとに発表を積み重ねることになり、自分でも
イデオロギーについて追及する方が性に合っているのかな、と思い始めて
来ました。

が、師匠からヴィゴツキー学について、11月に発表するようにと引導を
渡されて、またまた激しく迷い、冒頭の文献を読んでいます。

読み始めると、そもそも、自分がなぜ大学院に行って英語教育を学問的に
勉強したいと思ったのか、という原点を改めて突きつけられています。

自分は、英語教育政策や、英語教師に関心があるのではなく、もともと、
子どもたちの気づきや、英語に限らず子どもたちが日常生活で接したこともない
異言語に遭遇して、それが彼ら彼女らの学びの道筋をどう変えていったのか、
というダイナミズムの魅力に惹かれているのだと思います。

だから、申し訳ないけれども、すでに大人になって日本に来ている留学生
を対象にする日本語教育にも興味はないし、今の日本の英語教育で求められている
ようなスキルとしての英語の能力を伸ばすことにもほんとうは興味がない。

子どもが言葉としての異文化に教室で接して、それまでの思い込みが
ひっくり返るようなそういう体験、経験をする出来事、というのは
どういうことなのか、ということを知りたいのだと思います。

改めてヴィゴツキーの文献を読み返したうえで、初心に戻って、11月には、
そういうことを発表できるように精進していきたいと思っています。








2018年7月1日日曜日

臨床実践の現象学会 研究会

博士論文審査会のために散々現象学を勉強したにもかからわず、挫折してしまったこともあり、非常勤で忙しかったこともあり、しばらくこの研究会からは遠ざかっていました。

が、しつけんの研究仲間が発表するというので、参加してきました。看護学の研究者と現象学の先生方が中心なので、言語教育の分野はなかなか肩身が狭いのですが、仲間ががんばって切り開いてくれたので自分も続こうという気になれました。

データとレジュメはすべて回収されるので色々メモしたのですが、覚えていなくてもったいないことをしました。

以下は臨床実践の現象学会のホームページから今日の発表内容を転載して、今日の感想を
述べています。http://clinical-phenomenology.com/archives/

1.岩戸さゆき(大阪大学大学院人間科学研究科)「肺移植手術を待つ重症児と家族それぞれのレジリエンス」本研究は、脳死肺移植を待機している9歳の障害児であるN君と、両親、兄を対象とした事例研究である。N君の病状は重篤であるにもかかわらず、家庭は明るくポジティブな印象があった。そこで、それぞれの語りを分析し、どのようなレジリエンスが関与しているのかを構造化することを目的に研究に取り組んでいる。今回は父と兄の語りの分析を発表し、皆様からご意見をいただきたいと考えている。→フロアの先生からもご指摘がありましたが、データの解釈が主観的過ぎるのではないか、という感じるところが多々あり。せっかくの貴重なご家族の語りが十分に生かされていない、と思いました。レジリエンスという概念がどこから出てきたのか、という説明がなかった。

2.香月裕介(神戸学院大学)「クラスにおける日本語教師の実践」現在、日本語教師の「意識化されない実践知」を記述することを目的に研究を進めています。今回は、大学で非常勤講師として教える日本語教師の語りから、その日本語教師が「クラス」という場においてどのように実践を成り立たせているかについて分析したものを発表します。分析内容そのものはもちろん、その分析がいかに協力者や読み手の実践の捉え直しにつながるかという点についても、ご意見をいただければと思います。→教室ではなく、ただ人間の集団ではない「クラス」という概念について、「場」というのか?と深く考えておられたのが印象に残りました。あと、フロアの先生方の議論で、研究対象の教師が「静的」であり「変化しない、固定している」と言う人と、3回のインタビューの談話内容を細かく見ると「変化している」「成長している」と言う人が対照的だったので、データの読み方の深さについても考えさせられました。

3.村上優子(首都大学東京大学院人間健康科学研究科)「外傷性脊髄損傷患者の入院中の経験」現在、受傷後間もない時期の外傷性脊髄損傷患者がどのような経験をしているのか明らかにすることを目的に研究に取り組んでいる。今回は、研究参加者の何気ないひと言がどのような背景から語られているのか、また、医療者とのかかわりがどのように経験されているのかに注目して分析を試みたものを発表し、みなさまからご意見をいただきたいと考えている。→当事者の経験、を記述しようと試みている点では、この方の発表が一番現象学的ではないかと思いました。ただ、あまりにも内容が濃く、研究者が患者のリハビリに寄り添って、理学療法士の先生や作業療法士の先生とのやりとりを記述するには、文章だけでは限界があると思い、発表後に、社会言語学でのマルチモーダル分析のようなことをされてはどうか、とご本人に提案しに行きました。
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